月の光浴びても自転車が飛ぶことはない 前カゴには憂鬱が乗ってる
風邪をひいている。せっかくの夏休みなのに。今年はどこにも行ってない。
風邪をひいたとき独特の、甘いような、気怠い味が口と鼻じゅうに広がって、熱でぼんやりする頭で伸び縮みする時間を横になって過ごす。
そうして眠っているようで、眠っていないような時のなかでは、ちいさい小学生の頃の気持ちになる。
薄いタオルケットをかぶって、暑いけれど寒い、と寝汗をかきながら、早く家族が帰ってこないかな、と寂しくなる。
夕陽が射して赤くなってたはずの室内は、いつの間にか真っ暗になっている。テレビも電灯も付ける気にはなれなくて、熱にうかされながらうとうととし続ける。
とりとめのない考えがまとまることなくほどけて漂うのに任せているうち、寂しさと後悔と、切なさがさざ波のようにやってきては去ってゆく。けれど風邪のときの不思議と甘い味が、なんだかうっとりとした気持ちにさせてくる。
あー仕事行きたくないな!