映画『クロニクル』/ 目ぇかっぴらけ!デコ助野郎!
先日映画『クロニクル』を観ました!
最近の映画のなかでは比較的スリムな上映時間のなかで、物語のジャンプのしかたがちょうどよく、「視点」の行き来によって生まれる緊迫感やリズムが楽しい作品だった。
主人公はいじめられっこの軟弱系気弱男子。病気の母親と支配的な父親と暮らす鬱々とした日々のなか、「生活の全てを撮るんだ」とか言ってカメラを四六時中持って歩くように。それをまた周りにキモがられ、カメラをはたかれ、めそめそ泣いちゃう。
だが、邪険にはされないけど特段仲良くもないインテリ系の従兄弟と、優等生で友達も多い人気者と、三人で不思議な体験を経て超能力を身につける。
思わぬチカラを手に入れた三人は、能力を使ってやんちゃしたりしながらその仲を深めていく。しかし主人公の抱える孤独は深く、やがて彼は能力に呑まれてゆく—というお話。
以下普通にネタバレもありながら。
映画が始まってからずっと劇中の視点は主人公のカメラを中心に、街中の監視カメラや人々の持つ携帯のカメラなどを通して描かれる。
主観映像の、「今何が起こっているんだ」という緊張感や臨場感ももちろんありつつ、物語の設定や時代をうまく使って、映画全体のリズムや心情を描写できていたと思う。
初め映像は主人公の持つカメラという主観からしか捉えられないけれど、主人公が超能力に慣れて調子づいちゃってからは、そのカメラを浮遊させて客観映像を撮り始める。
浮遊するカメラによって、主体でありながら客体にもなる状態。
視点の支配っていうのは、パワーの占有でもあって、主人公の「増長する自己認識」の背景として象徴的だったと思う。
また、撮影対象でありながらその視点を動かしてる状態って、自分が「どう写されたいか」「どう見られたいか」っていうのが無意識に表れることでもある。孤独で友達もいなかった少年がそういう力を手に入れるのって切ないと思う。
手持ちのカメラだった当初は、相対する人間がどんな感情を持ってどんな視線を投げかけているか、自分とどういう関係性のなかにあるのかっていうのが生々しく伝わったけれど、浮遊するカメラはすべてを遠くにやってしまう。
浮遊させることで、誰かの心配する目や、痛みを感じ取れなくなってしまう。
あと、 そういうふうに記録した映像を、暗〜い部屋で振り返って見てるのもあかんよなあ。独り言が煮詰まっちゃう感じ。自分の好きなように切り取った現実を繰り返し見てたら、「自分」が濃くなってくばっかりだよアンドリュー…。
超能力の可能性を少しずつ広げていって、こんなこともできる!あんなこともやろうぜ!って3人でやんちゃしている時が最高に青春で楽しいからこそ、後半煮詰まってく主人公の切なさたるや。
笑いをこらえて、でもこらえきれずにブーって噴き出して、腹ぁ抱えて、笑い転げて、友達んちに泊まって、暗い部屋で、もう寝た?ってそっと言って、「今日が今まで生きてきて一番に楽しかった」とか話しちゃうの、もう……これまさに青春!くーッ!!って感じなだけに。
イケてなくて軟弱でだめな自分と比べて、ちょっと頭よくて素敵な女の子とこの頃いい感じの友達でも、何でも出来て明るくておもしろい人気者の友達でも、そいつらはちゃんと友達でいてくれて、自分を心配したり、元気づけてくれてるんだから、自分の目でそれを認識していかなきゃだめっすよ。
絶望だけを見てはいかんですよ。
最後の街を破壊し尽くすシークエンス、恐怖感すら抱きつつ、やっぱり切なかったな。孤独の末の号哭は、世界に対する圧倒的な拒絶で、迫力があった。赤ん坊が泣いてるみたいで、哀しかった。
それでも映画の最後の最後は、救いがあった。
能力使って世界旅行しようぜ!って男子高校生たちが盛り上がってるときに空気読まずに「チベット行きたい」とか言っちゃうのもアンドリューらしいけど、そこに絶望から抜け出す道があることに、本人自身無意識下で気付いてたんじゃないのかなあ。
初めのほうに、主人公がレゴを超能力で操って、タワーをひょいひょいと造るシーンがある。建物を簡単に造ってみせて、空を飛んで小さくなった街を見下ろす。そういうひとつひとつが全能感を大きくさせてく一方で、思春期のただなかの狭い世界のなかにはどうにも居場所を見つけられない。
「創造主」だって感覚があるのに、現実とは乖離があるから「破壊」に走ってしまう。
絶望を止められずに暴走した最期は、聖槍によって死ぬっぽい、キリスト世界の文脈にあったけど、彼の魂を解放する場所として友人は、チベットを選ぶわけでしょ。
辛くて、自分の存在をうまく保てない場所(キリスト圏である狭い地元)から、その文化圏じゃない他の場所へ思い切って行ってみれば、絶望に染まらずにすんだんじゃないのかなあって。
孤独だけど、青春まっただなかのおバカな感じも楽しめる、おもしろい映画だった。
超能力使って空飛びてーぜ!
(記事タイトルは『AKIRA』を意識しました。)