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春だぜ!祭りだ!句会行こうぜ!

公開句会イベントの東京マッハが、2週間前『大東京マッハ』なる名称でいつもよりも大規模で開催され、行ってきたので覚えている限りで覚え書きを残しておこうと思います。

何ヶ月かごとに開催されていて、時間の合う限りは行くようにしてます。東京マッハ以外の句会には参加したことはないけど、毎回おもしろくてめちゃくちゃ大笑いして帰る。以前に書いた覚え書きの記事はこちら。もう2年前の春になるのか〜…。

 

「大」と付くのにふさわしく、広い会場でお客さんは300人ほどいた模様。

東京マッハでは、登壇者がそれぞれ書いた俳句が全部で30句、作者を伏せた状態で記載された選句用紙がイベント開始前に配られて、観客・登壇者ともに特選・並選・逆選を選びます。イベント開始後は、票を集めた俳句を中心に、あーだこーだと、句のよさ、背景、作者はこう考えてこの言葉を選んだはずだ、などと、作者自身もすっとぼけながら議論します。この議論の過程が楽しい。

いつもは特選1句、並選6句、逆選1句を選ぶのだけど、今回は観客数が多く集計が大変とのことで並選が3句となっており、ぐぎぎ…あれもこれも選びたい、がしかし…と大変悩んだ。結果として、選考基準が単なる自身の好みだけではなくて、「これは万人受けするタイプのものではなさそうだから、応援の意思表示としてこれを並選に入れておこう…」とか戦略的な思考が働いて、それも楽しかった。

 

イベントの中で触れていて印象的だった句と、自分が選んだ句をちょこっと書いてみようと思います。

まずは、6人中、作者以外の登壇者5人全員が選んだこの句。私も特選にしてました。

出来立てのジャムから湯気や花曇

議論をひととおり終えたあとに作者を明かすのが常ですが、今回は一人以外全員が選句しているので、手を挙げるまでもなく自然と作者がわかる。ということで長嶋有さんが詠み人さん。

春ののんびりとしたあたたかな空気のなかで、さらに熱を持つジャムが白い湯気を立ててゆっくりと冷えていく様や、ジャムの甘い香りが漂う静かなキッチン、鳥の声が聴こえてきそうな平和な光景、生活の確かな手触りが目に浮かんで、いいなあと思って私は特選にしました。

「通常食べる際のジャムは冷たいものだけど、そのジャムも出来立ては熱いのか、という驚きがある」と確か池田澄子さんが言っていたのが印象的だった。ベスト句に輝いてご機嫌な長嶋さんがぺらぺらふわふわとしゃべっていると、レギュラーメンバーから「いい句なんだから黙っててほしい」とツッコまれていました笑。

長嶋さんの句はなんとなく、日常生活のなかのさりげないひと場面を掬って、ことさらキメすぎるわけでもなくじわりと「良さ」と繊細さをもって描くものが多い気がして好きなんだよなあ。

また、今回のジャム句も、「自分でジャム作ったことあるの?」と聞かれて「自分ではないけど、作っているところを見たことがあって」と答えていて、ともに生活をしたことのある女性の影、みたいなものが香る句も多い気がして、色っぽさがあります。彼の風貌は、呑み屋で一緒になったら警戒心なく楽しくわいわいできそうな中年のおじさん、といった趣なのが、またセクシーだと思います笑。

 

ディスクジョッキー明るく一人きり春灯

”明るく”がDJの態度だったり、照明の明るさだったり、孤独のなかでふと我に返って自身の明るい態度に自嘲を覚えている、など色んな解釈がされていておもしろかった。ラジオは聴衆が見えないので、一人きりで喋る孤独は独特のものがあるみたい。一人で闇に向かって喋るけど、聴いている人がたくさんいるかもという希望も、と言っていてなるほどなあと。

ラジオは夜のイメージがあるのと、防音された部屋は独特の音のこもる感じがあって、”箱”感が強調されるので、深夜、その箱だけ四角く照明が明るい情景と、オンエアー中を示す赤いランプが提灯っぽいよなあ、と頭のなかで思い浮かべていたけど、歳時記で「春灯」を調べてみると別に提灯の意ではないみたい。勝手に春のお祭りの提灯と捉えていた笑。作者は長嶋さん。

作者を明かす前に、NHK俳句で選者としてレギュラー出演される堀本さんが「『春灯』ってテーマだったらこれ採りたい」って言ったところ、長嶋さんが思わず「うっそ!?」って嬉しそうに勢い込んで言って、作者ばればれになってておもしろかった笑

 

春雨の音や人工受精中

これは自身ではノーマークだった句なんだけど、会場の解釈を聞いていると良さがどんどんわかってきて親しみを感じる。印象がどんどん上書きされていくのがこのイベントのおもしろさ。

「施術中のまさにその瞬間も、施術後から着床までを待つ期間のどちらでもありえる」「”人工受精中”という期間が存在するんだな、という新鮮さや、着床するか待っている気持ちの生々しさ、悲しさ」「瞬間ではなく期間を切り取る俳句は珍しい」「”春雨の音や”で、室内から春雨を耳だけで聴いている様子がわかる。しんとした気持ち」などの読み。このテーマと繊細な情景設定は女性作者かな、と思うけど、どっこい選句者が池田澄子さんと村田沙耶香さんと長嶋有さんということで、作者は男性メンバーしかありえない。池田さんが「村田さんが詠んだものだと思っていたけど。誰が作ったのかしらねえっ?」と無邪気にわくわくとしてらして、その様子がとてもお茶目でかわいらしかった笑

作者は堀本裕樹さん。しかもこれ村田さんへの挨拶句!村田さんの小説『消滅世界』のテーマの人工授精と、登場人物の「雨音」の音を取り入れた句だそう。限られた文字数で相手に関する情報を入れつつ、むりなくいい句に仕上げてて、本当にすごい。これを毎回堀本さんはやっているのです。素敵。「挨拶句で”人工授精”なんて入れようと思わない」というツッコミに笑う。

 

鯉に春とても光が美味しそう

ぽかぽかした太陽の光にきらめく水面とか、 公園で鯉を眺める家族連れとか恋人たちの春のうららかな光景が浮かんで、のびのびした素直ないい句だな、と思いながらも悩みつつ私は並選から外した句。

観客としていらしてた佐藤文香さんがテクニカルな句と評してました。

「通常の語順では、”光がとても”となるところを、春のわくわくした気持ちで”とても”を先に感じてる」「意識した”とても”の規定のしかたによって春の光を讃えてる」「鯉は口が大きくて、口の生き物の感じ。光をごくごく飲むイメージが浮かぶ」などのやりとり。なるほど。

 

胸に入る空気春です春ですと

これもすごく採りたかったけど、泣く泣く外した句。春って植物も動物も活き活きしだして、芽吹く感じ、そわそわするじゃないですか。でなんとなく河川敷か何かで深呼吸したくなって。何もなくとも、ほどけるように笑えるっていうか。吸い込んだ春の空気が、春ですよ、訪れてますよ、って主張してくる感じがすごくわかる。胸に風がさっと吹き渡る爽やかな句。

これを特選にしてた村田さんは、「手術中で、開かれた胸に入る空気」を想像していたらしく、会場には悲鳴があがる笑。この他の句でも村田さんはホラーな想像や背景設定をしていて、何度も会場に戦慄を走らせていた笑。

上の二つの句は池田さん作。

 

長くなったので、以下私が選んだ句。

◎特選

出来立てのジャムから湯気や花曇

         ー長嶋さん作

 

○並選

 わんたんをめくる鳥雲に入る

         ー米光さん作

 

廃校舎玉音放送いまだ止まず

         ー千野さん作

 

歯が燃える夢を何度も春の虹

         ー村田さん作

 

イベント冒頭で、池田さんが「逆選採らなきゃいけないのよね?いやぁねぇ…はあ〜」と本当に嫌そうでとてもかわいかった笑。私も逆選嫌なタイプなのでここには載せません笑。

 

『わんたんをめくる〜』の句。スープの中の雲呑を箸でそっとめくると、そこに鳥の群がすーっ入っていく。文字を目で追っていくに連れて、皿の中から、雲が広がる空へとスケール感がすっと移行する。あるいはスケール感はそのままで、皿の中で小さな鳥たちが雲呑の裏側へ入っていく。そのメタモルフォーゼ感が楽しい。

”鳥雲に入る(とりくもにいる)”とは「鳥が群をなして雲間に入ってゆく様。それを見送り、別れを惜しむかのような人間の心を感じさせる春の季語」だそうな。

”めくる”って動作にも、寂しさがありますよね。誰かの送別会のあと、雲呑ラーメン食べてるんだけど、ばくばく食べるんじゃなくて、物思いに耽りながら箸の先で雲呑をなんだかめくっちゃう感じ。あと、白くてもちもちしたものに私は無条件に弱いのだ。…お、書けば書くほどこの句すごく好きだなー。

 

『廃校舎〜』の句。玉音放送ってやっぱり強烈に夏のイメージだけど、それが春でもまだ流れ続けてる。夏の時間が廃校舎ごと永遠にパッケージングされてる。外の世界は季節が巡っていくけど、誰もいない廃校舎のなかで玉音放送が反響し続ける。不気味な雰囲気がつぼです。

 

『歯が燃える〜』の句。具体的な絵のイメージは浮かべられないけど、文字とモチーフの組み合わせがおもしろくて採りました。硬い歯が燃えてるって現象のおもしろさ。”春の虹”自体は牧歌的なのに、”歯が燃える夢”はなんだかただごとじゃなく悪夢的。心地よい春の陽気のなかで昼寝をうつらうつらとするんだけど、何度も夢を見て起きる。寝ている間に繰り返し火葬される。じっとりとした寝汗を感じる。

 

 

 季語にはまったく詳しくないんだけど、歳時記をぱらぱら読むとおもしろい。あの食べ物・動物・植物はあの季節のものとされてるのかとか、こんなお祭りで季節の巡りを祝ったんだとか、あの現象・心情をこういう風にとらえるのかとか、今はない文化だなとか。

”亀鳴く”っていう春の季語。「亀が鳴くことはないが、春になると亀も雄が雌を慕って鳴くとする空想の季題」とのこと。空想って!笑 空想を季語にしちゃうゆるさ。

風光る”。「春光あふれる中を吹く風を光ると感じたもの。特定の風でなく、春の風一般の感覚的なとらえ方である」

 

↓これ1冊しか持ってないけど、文庫サイズのお手軽値段で、用語と俳句事例もたくさん載っててよいです。

 

フレームを知らないと、感知できないものはたくさんある。季語として規定されたものを知っていると、見過ごしてきた些末な感覚や風景に気づける機会がぐっと増えそうだなと思った。

特に、春のわくわくする感じ、生命の芽吹く歓びを表すのって俳句大得意でしょって感じ。

 

 長くなって息切れしてきたのでここいらで終わります。